何に怯えていたんだろう

”外国は危ない” なんて、よく聞く話だけど、よほど危険な国に行かない限り、知らない人についていかない、夜中に出歩かない、といった、子どものころに言われていた事を肝に銘じておけば、外国は危なくない。と思えるようになったのも、それなりの渡航歴が生んだ慣れの感覚だけど、もし、最低限の事に気を付けていたのに巻き込まれたのなら、そこは運命として、と諦める事にしている。

旅行し始めた頃は、近づいてくる人全てを全力で疑っていた。騙されるかもしれない、何か盗られるかもしれない、お金を要求されるかもしれない。そんな疑いが常に頭の中に渦巻いていた。ロンドンで、地図を広げてると、老人に声を掛けられた。自身の語学力はサッパリ、かつ、いきなり近づいて来た男性に驚いて、そそくさと無言で立ち去った。男性は、手を広げ、何かを言っていた。

ただ、道を教えてくれようとしていただけだったなら、なんて酷い事をしてしまったんだろう。私はいったい何に怯えているんだろう。この時を境に、疑う事をやめた。それは、一つの方面に過剰に神経を使う事をやめる事と一緒で、重たいオーバーを脱いだように身軽で気持ち良かった。あの時の男性は今でも頭の中に住み着いていて、思い出しては『おじいさん、ごめん。』と詫びる日々。

無防備すぎず、程よく疑いつつ、疑いすぎない。旅行を楽しむための、ポリシーのひとつ。